湿地の恵み復活プロジェクト~石狩地域産のスゲによる〆縄づくり2022年報告

スゲ〆縄倶楽部

湿地の恵み復活プロジェクト~石狩地域産のスゲによる〆縄づくり2022年報告

古来より〆縄は、身近に生える湿地の植物(稲も含め)を採り、それを綯って(なって)作り祀っていた。代表的な素材であるスゲ(菅:カヤツリグサ科の湿生植物)も、近年、身近な湿地が激減して入手が難しくなったことや、綯う人々の高齢化やコミュニティ力の低下とともに〆縄の石油製品(ナイロンやプラスチック等)化や輸入品化などが進んでいる(写真-1,2)。

写真-1 石油製品になっている神社の〆縄
写真-2 販売されている中国製の〆縄

            

この文化を残し、未来に繋いでいき、地域資源にしていくことを目的に地域産のスゲを殖やすプロジェクトを、「北海道e-水プロジェクト」の助成を受けて2022年春から本格的に取組み始めた。プロジェクト内容は以下の通り。

  1. スゲ群落調査~収穫~〆縄づくり ・・収穫可能な群落を見つけ、夏に刈り取りを実施→乾燥させて、年末に〆縄づくり
  2. スゲ増殖方法の検討・・育苗方法試行(播種、地下茎増殖)、現存群落の育成(他の植物の制御など)、スゲ田の可能性の検討(休耕田や未利用地・河川敷地や遊水地の利用)
  3. 〆縄づくりの地域資源化可能性の検討・・コミュニティ再生のほか、観光資源(〆縄体験のアクティビティ提供や販売等)
  4. 〆縄などの文化や湿生植物の地域資源化を通して、湿地の大切さを広く伝える


2022年度は、主にAから着手した。

カサスゲ群落調査

4月下旬から数回にわたり、石狩川下流や千歳川の河川堤防と河岸の間の雑木林・ヤナギ林を中心にスゲの萌芽する場所を探索した。その中で、石狩川豊平川合流点よりやや上流の本川右岸の篠津川合流点上流側のヤナギ林内に、ある程度まとまってカサスゲが生育する場所を確認した(図-1,写真ー5)。

図 1 対象カサスゲ群落位置図
写真-5 カサスゲ群落(ヤナギ林内)

カサスゲ刈り取り

7月中旬に刈り取りを計画し、準備を進めていたところ、河川管理者から「付近でチュウヒが営巣しているので、立ち入らないように」との連絡が入り、いろいろ方法を検討したが時間的にも余裕がないため、他の場所を改めて探した。その結果、月形町の里山を管理している知り合いから「うちにもスゲがあるから見てみてはどうだろう」と声を掛けていただき、見たところ普段草刈りをしている管理道脇やヨシ原の端にカサスゲ等があることを確認し、刈り取り場所をこの里山に変更して、7月18日に20名近い参加者とともに刈り取り作業を行った(写真-6,7)。

写真-6 カサスゲの刈取り 
写真-7 収穫したカサスゲ

刈り取ったカサスゲは、農家の倉庫に吊して乾燥させてもらった(写真-8,9)。

写真-8 収穫したカサスゲ 
写真-9 カサスゲの乾燥 

カサスゲ採種、播種

7月上旬に種子が熟してきたので、育苗を試験的に行うため採種した(写真-10,11)。

写真-10 結実したカサスゲ
写真-11 採取したカサスゲの種

採取した種子は精選して、刈り取り活動の後、参加者と育苗箱に播いた(写真-12)。しかし発芽は不良で、数本しか発芽しなかった(写真-13)。今後スゲ田づくりのための育苗を進める上では、増殖方法の検討が必要である。

写真ー12 カサスゲの播種
写真-13 カサスゲ発芽状況(10月)

〆縄づくりワークショップ

11月下旬に、正月に自宅で飾る〆縄づくりのワークショップを開催した。スゲを使った〆縄づくりワークショップは、これまでも毎年開催しているが、青森産のスゲを購入して作っていた。今年度は初めて、石狩川流域で収穫したカサスゲを使っての〆縄づくりを行えることとなった(今回も半数は青森産のスゲを使用)。

講師は例年通り、おたる自然の村の二杉寿志さんにお願いし、〆縄の意味やスゲの特徴などのお話を伺いながら、皆で綯っていった。今回採取したカサスゲは、青森で生産されているものとは違って細く柔らかく短いが、青々しく香りが強かった(写真-12左)。

写真ー14 使ったスゲ(左:道産 右:青森産)
写真ー15 〆縄を綯う
写真ー16 〆縄を綯う
写真ー17 〆縄を綯う

前述の通り、今回採取したスゲは、青森より購入したスゲより細く短いため、完成した〆縄もやや小さめではあったが(写真-16)、充分に立派なものとなった。

写真ー18 〆縄(左:青森産、右:北海道産)
写真ー19 〆縄完成

まとめと今後の展望

1.現状でのカサスゲの収穫

〆縄を綯うためのカサスゲの大きな群落は見つけられなかったが、湿地付近の道端や河畔のヤナギ林の中、薄めのヨシ群落の中にもカサスゲは点在しており、これを集めることである程度の収穫が可能である事が分かった。

2.カサスゲの収量を増やす方法

現状の混在群落で他の植物を除去する

ヨシやアワダチソウと混在しているカサスゲ群落において、これら他の高茎草本を除去(刈ったり抜いたり)することで、スゲの本数を増やし、生育を良くする。これは今回の収穫場所のヨシ原で試行(ヨシの刈り取り)してみたところ、秋にはカサスゲが殖え、良好な群落になっていたことや、普段からヨシ等高茎草本の刈り取りを行っている道端でスゲが繁茂していることから、多少年数は掛かっても、有効な方法であると考えられた。但し、施肥などによって収量を殖すには、他の高茎草本の除去が達成してからでなくてはならず、また施肥後はいわゆる雑草防除の手間が大きくなると予想される。

スゲを植えた「スゲ田」を作って育てる

スゲ田はスゲを使った工芸品(菅笠など)を作っていた地方では、湧水を利用できる山沿いの田んぼで作られていた(「ふゆみずたんぼ」同様、米作の灌漑のように水を切らないため湧水を利用)。石狩川流域でも、山間部の耕作放棄水田の再利用、もしくは遊水地や高水敷などの河川用地のグリーンインフラ利活用としてもスゲ田による増殖が可能であると考える。

現存するスゲ田(菅田)がある富山県富岡市の「越中福岡の菅笠製作技術保存会」および大阪市東成区の「深江菅細工保存会」のスゲ田を見させていただいた(写真-20,21)。また北海道内でも、函館市にある道立道南四季の杜公園にスゲ田がある(写真-22,23)。北海道でもスゲ田の利用は充分可能であると考える。

写真-20  富山県高岡の菅笠保存会のスゲ田
写真-21  大阪市の深江菅細工保存会のスゲ田
写真-22  道南四季の杜公園のスゲ田
写真-23  道南四季の杜公園のスゲ田の説明看板

この場合、スゲの苗の育成が必要となり、方法として(a)播種 および(b)株分けが一般的となる。今回の播種試行では発芽率が非常に低かったが、これまでの雪印種苗株式会社での実績などから可能であることは分かっている。また株分けも多少手間が掛かるが、早期に大きな苗を得るのに有効と考えられる。

試験栽培可能な場所の確保が課題であり、河川管理者との連携が必要と考える。

3.カサスゲの活用の展望

①〆縄文化を守り、地域コミュニティを維持再生する

〆縄づくりの材料を確保して、〆縄文化を守ることは重要であり、地域の神社の〆縄づくりを地域産のスゲで復活させるとともに関係人口も含めた地域コミュニティの維持・再生の意義は大きい

〆縄づくりをエコツアーのアクティビティとする

日本文化として分かり易い〆縄づくりは、インバウンドの需要が高いと考えられる。湿地環境の保全と組み合わせたエコツアーは商品としての価値は高いだろう。

アイヌ文化のガマのゴザ(チタラペ)と組み合わせることで北海道らしさ演出も魅力的だ。

〆縄づくりのみならず、湿地での環境教育の場となる

〆縄づくりは、カサスゲという自然資源の利用と文化という面で環境教育の題材として活用しやすく、またカサスゲ群落のある湿地の自然環境も環境教育の場として良好であると言える。グリーンインフラの学習としてもとても良い。

4.グリーンインフラの利活用と生態系保全の調整の問題

当初、カサスゲ群落を見つけて収穫を計画していた河川空間は「グリーンインフラ」としての価値が高く、治水という本来の整備目的を果たしながら、多くの生きものの生息域であると同時に、今回とりあげた〆縄等さまざまな文化で使われる植物が生育する土地でもある。

グリーンインフラの機能として、生態系の回復とともに多様な主体の参画があり、私たちもカサスゲの収穫を企画したが、希少な猛禽類であるチュウヒの営巣が[近くで]確認されたという理由で、立ち入らないように河川管理者から言われた。何度かやり取りしたが、立ち入りが困難と判断し、結果、たまたま縁がつながった里山の沢地でスゲを見つけて収穫できることになった。

そのチュウヒの営巣場所の詳細は未確認だが、一般的にはヨシ原等の湿生草本群落で行われるため、私たちがスゲを刈ろうとしていたヤナギ林内よりは100m以上河川側に離れていると思われる。チュウヒの子育てに問題のない方法やエリアなどを、鳥類の専門家と話すことで、折り合いが付けられたかも知れないと考える。

「生態系保全」と「植物の利活用等」の調整(折り合い)について、科学的根拠を基に協議する場や仕組みが必要と思われた。今後、管理者や専門官らと協議していきたい。

この活動は、北海道e水プロジェクトおよび地球環境基金の助成を受けて実施しました。