石狩地域産のスゲで〆縄づくり(2023年度報告)

スゲ〆縄倶楽部

古来より〆縄は、身近に生える湿地の植物(稲も含め)を採り、それを綯って(なって)作り祀っていた。代表的な素材であるスゲ(菅:カヤツリグサ科の湿生植物)も、近年、身近な湿地が激減して入手が難しくなったことや、綯う人々の高齢化やコミュニティ力の低下とともに〆縄の石油製品(ナイロンやプラスチック等)化や輸入品化などが進んでいる(写真-1,2)。

写真-1 化学製品になっている神社の〆縄
写真-2 販売されている中国製の〆縄

千歳市の泉郷神社には、年に2回スゲの〆縄が地元の方によって綯われて奉納されている。しかし周辺で採取していたカサスゲ群落が失われ、現在90歳超のリーダーの方が以前採取して保管してあるカサスゲを使って、伝統を細々と繋いでいる現状である(写真3,4)。

写真-3 スゲで綯われた〆縄(泉郷神社)
写真-4 泉郷神社に奉納される〆縄(2019年4月)

この文化を残し、未来に繋いでいき、地域資源にしていくことを目的に地域産のスゲを殖やすプロジェクトを、「北海道e-水プロジェクト」の助成を受けて2022年春から本格的に取組み始めた。プロジェクト内容は以下の通り。

A)スゲ群落調査~収穫~〆縄づくり 
 ① 収穫可能な群落を見つけ、夏に刈り取りを実施→乾燥させて、年末に〆縄づくり
 ② ①で、より多くの収穫ができたら、神社の〆縄づくりにも挑戦

B) スゲ増殖方法の検討
 ① 育苗方法試行(播種、地下茎増殖)
 ② 現存群落の育成(他の植物の制御など)
 ③ スゲ田の可能性の検討(休耕田や未利用地・河川敷地や遊水地の利用)

C) 〆縄づくりの地域資源化可能性の検討
 ① コミュニティ再生
 ② 観光資源(〆縄体験のアクティビティ提供や販売等)

D) 〆縄などの文化や湿生植物の地域資源化を通して、湿地の大切さを広く伝える

 2022年度は、A)①を達成しながらB)①および②について試行を進め、
 2023年度は、A)①および②、B)①②を進めるとともに③を試行した。

カサスゲ群落調査

4月下旬から数回にわたり、石狩川下流や千歳川の河川堤防と河岸の間の雑木林・ヤナギ林を中心にスゲの萌芽する場所を探索した。その中で、石狩川豊平川合流点よりやや上流の本川右岸の篠津川合流点下流側のヤナギ林内(2022年は上流側のオレンジ色の印)当別自然再生地内のヤナギ林内に、まとまってカサスゲが生育する場所を確認した(図-1,写真ー5)。

図-1 対象カサスゲ群落位置図
写真-5 カサスゲ群落(ヤナギ林内)

カサスゲ群落の整備(雑草除去)

昨年、月形のヨシ原内にあったカサスゲ群落で7月にヨシの刈取りを行ってみたところ、秋にはカサスゲが良く生育していたことから、収穫前にヨシなどの高茎の雑草を除去することで、良いカサスゲが楽に収穫できるものと考えて、春から夏に2回、整備作業を実施することとした。

5月13日と6月18日、収穫を予定しているⓐ石狩川篠津川合流点上流とⓑ月形の里山の2ヶ所で、カサスゲの生育を阻害しそうな高茎雑草を除去(抜き取りor刈り取り)を行った。ⓐでは主にアワダチソウ類とヨシおよびオオハンゴンソウの抜き取り、ⓑではヨシの刈り取りを行った(写真-6,7)。

写真-6 群落整備(5月13日)雑草除去 ⓐ
写真-7 群落整備(6月18日) ヨシ刈取りⓑ

カサスゲ刈り取り

7月17日に、先述の群落管理を行ってきたⓐおよびⓑで、「スゲ〆縄倶楽部」の部員約20名とともに刈り取り作業を行った(写真-8,9,10)。

刈り取ったカサスゲは、農家さんの納屋に寝かせて乾燥させてもらった(写真-11)。

写真-8 カサスゲの収穫ⓐ 

写真-9 カサスゲの収穫ⓑ
写真-10 収穫したカサスゲ

写真-11 カサスゲの乾燥


さらに今春新たに見つけたⓒ石狩川篠津川合流点下流のカサスゲ群落では、かなり葉が長いスゲが多く、近くにお住まいの農家のTさんと刈り取りを行い(写真-12)、長い葉だけ揃えた(写真-13)。

写真-12 カサスゲの収穫ⓒ
写真-13 収穫したカサスゲを揃えるⓒ


長さを揃えたスゲは、Tさんの納屋で寝かせて乾燥させ(写真-14)、1週間後からは吊して保管した(写真-15)。Tさんは、15年ほど前までスゲを収穫して〆縄を綯い、集落の八幡神社に奉納されていたとのことで、神社に納める大きな〆縄づくりを指導してくれることになった。

写真-14 カサスゲの乾燥ⓒ
写真-15 カサスゲの保管(1週間後以降)

カサスゲ採種および播種、育苗

7月2日に、カサスゲ育苗のため種子採取を行った(写真-16,17)。

写真-16 成熟したカサスゲ種子
写真-17 カサスゲの種子採取


採取した種子は精選して、刈り取り活動の後、参加者と育苗箱に播いた(写真-18)。昨年は発芽不良で数本の苗しか育たなかったが、今年は多くの発芽が見られた(写真-19)。今後スゲ田づくりのための育苗を進める上で、やや見通しがついたと言える。

写真ー18 タネ播き
写真ー19 発芽したスゲ苗(9月19日)


神社の〆縄を綯う

前述したように、多くのスゲを収穫できたことと、以前近隣で採取したスゲで神社に〆縄を奉納されていたTさんに出会えたことから、ご指導いただいて神社に掛ける〆縄を綯ってみた。9月17日にTさん宅に集合し、1時間ほどで〆縄を綯うことができた。(写真-20~23)

写真ー20~23 神社に奉納する〆縄を綯う

<追記>
美唄市の大富神社が、使っていた化繊の〆縄が10年目の交換時期であり、このスゲの〆縄を奉納しても良いと、受け入れてくださりました。
翌年の春季例大祭で奉納された報告はこちら

家庭用〆縄づくりワークショップ

11月23日、正月に自宅で飾る〆縄づくりのワークショップを開催した。スゲを使った〆縄づくりワークショップは、これまでも毎年開催しており、昨年から石狩川流域で収穫したカサスゲを使っての〆縄づくりを行っている(今回も12月に青森産のスゲで開催)講師は例年通り、おたる自然の村の二杉寿志さんにお願いし、〆縄の意味やスゲの特徴などのお話を伺いながら、皆で綯っていった。春から生育地を整備して育てて収穫したカサスゲを使っての〆縄づくり、先人達や減少している湿地環境に想いを馳せつつ、楽しく行うことができた(写真-24~29)。

写真ー24~29 家庭用〆縄づくりワークショップ

まとめと今後の展望

1.現状でのカサスゲの収穫

〆縄を綯うためのカサスゲ探索を2年にわたり行い、幾つかの群落を見つけ、またある程度大きな群落も見つけられた。主に河畔のヤナギ林の中や(薄めの)ヨシ群落の中にもカサスゲ群落が点在しており、これらを集めることで一定量の収穫が可能であった。

また後述する保育作業によって、収穫量を増やし収穫手間を減らすことが可能であった。

2.カサスゲの収量を増やす方法

① 現状の混在群落で他の植物を除去する

ヨシやアワダチソウと混在しているカサスゲ群落において、これら他の高茎草本を除去(刈ったり抜いたり)することで、スゲの本数が増え、生育を良くなる。これは昨年、収穫場所のヨシ原での試行(ヨシの刈り取り)によって、秋にカサスゲの良好な群落が形成されていたことや、普段からヨシ等高茎草本の刈り取りを行っている道端でスゲが繁茂していることから、有効な方法と考え、今年実施し、確証を得た。

但し、施肥などによって収量を増やすことは、他の植物の生長も促すため、望ましくないだろう。

② スゲを植え「スゲ田」を作って育てる

スゲ田はスゲを使った工芸品(菅笠など)を作っていた地方では、湧水を利用できる山沿いの田んぼで作られていた(「ふゆみずたんぼ」同様、米作の灌漑のように水を切らないため湧水を利用)。石狩川流域でも、山間部の耕作放棄水田の再利用、もしくは遊水地や高水敷などの河川用地のグリーンインフラ利活用としてもスゲ田による増殖が可能であると考える。

現存するスゲ田(菅田)がある富山県富岡市の「越中福岡の菅笠製作技術保存会」および大阪市東成区の「深江菅細工保存会」を昨年訪問し、スゲ田を見学させていただいた(写真-30,31)。

写真-30  富山県高岡の菅笠保存会のスゲ田
写真-31  大阪市の深江菅細工保存会のスゲ

また北海道内でも、函館市にある道立道南四季の杜公園にスゲ田がある(写真-32)。北海道でもスゲ田の利用は充分可能であると考える。

写真-32  道南四季の杜公園のスゲ田

この場合、スゲの苗の育成が必要となるが、方法として(a)播種 および(b)株分けが一般的となる。昨年に続いて播種による育苗を試みたが、昨年非常に低かった発芽率が今年は良好で、これまでの雪印種苗株式会社での実績なども踏まえて、多くの苗を得る有効な手段であると言える。また株分けによる育苗は、多少手間が掛かるものの、早期に大きな苗を得るのに有効と考えられる。

これまでの雪印種苗株式会社での実績なども踏まえて、多くの苗を得る有効な手段であると言える。また株分けによる育苗は、多少手間が掛かるものの、早期に大きな苗を得るのに有効と考えられる。

昨年播種して育成した数株を、10月に新十津川町の田んぼの脇を掘削してできた池に、試験的に植栽した(写真-33)。

スゲ田によるスゲ育成の可能性を探るための実証的な試験が今後必要で、 場所の確保が課題であり、河川管理者との連携が必要と考える。 (石狩川当別自然再生地での実施を検討中)

3.カサスゲの活用の展望

① 〆縄文化を守り、地域コミュニティを維持再生する

〆縄づくりの材料を確保して、〆縄文化を守ることは重要であり、地域の神社の〆縄づくりを地域産のスゲで復活させるとともに関係人口も含めた地域コミュニティの維持・再生の意義は大きい

② 〆縄づくりをエコツアーのアクティビティとする

日本文化として分かり易い〆縄づくりは、インバウンドの需要が高いと考えられる。湿地環境の保全と組み合わせたエコツアーは商品としての価値は高いだろう。

アイヌ文化のガマのゴザ(チタラペ)と組み合わせることで北海道らしさ演出も。

③ 〆縄づくりのみならず、湿地での環境教育の場となる

〆縄づくりは、カサスゲという自然資源の利用と文化という面で環境教育の題材として活用しやすく、またカサスゲ群落のある湿地の自然環境も環境教育の場として良好であると言える。グリーンインフラの学習としてもとても良い。

4.グリーンインフラの利活用と生態系保全の調整の問題

当初、カサスゲ群落を見つけて収穫を計画していた河川空間は「グリーンインフラ」としての価値が高く、治水という本来の整備目的を果たしながら、多くの生きものの生息域であると同時に、今回とりあげた〆縄等さまざまな文化で使われる植物が生育する土地でもある。

グリーンインフラの機能として、生態系の回復も重要な要素であり、昨年はチュウヒの営巣地が近くにあることを理由に河畔林内でのスゲの収穫が出来ないということがあったが、科学的根拠に基づいた調整が必要と考える。

石狩川流域での「生態系ネットワーク推進協議会」が始動する今、協議の場や仕組みができることを期待したい。

この活動は、以下の助成を受けて実施しました。

  • 北海道e水プロジェクト
  • 真如苑 環境保全・生物保護 市民活動助成 “地球・自然・いのちへ”
  • 富士フィルム・グリーンファンド